事実2
摂食障害は家族のせいで、引き起こされるのではありません。
むしろ、患者さんが治療を受ける上で、家族は、
患者さん、医療従事者の一番の協力者になり得ます。
今でも、日本でもアメリカでも、
母親の育て方が悪い、
母原病だ、
お母さんが構い過ぎなのだ、
家族の仲が悪いせいだ、
父親が育児に関わらなかったから、
父親がいなかったから、などと、
ひどい言葉を医療者からかけられることが多々あります。
そして、お母さんは、多くの場合、
なぜもっと早くに気づいてあげられなかったのだろうか、
自分の育て方が問題だったのだろうか、
私にできることはなんだろうか、
本当に良くなることができるのか、
もしかしたら、死んでしまうのではないかと、
そんなことを言われる前から、不安で、不安で、罪の意識でいっぱいのことが多いのです。
アメリカでは、そもそもその方が、生まれつき、
摂食障害になりやすい特質を持って生まれてきている、といいます。
遺伝的因子をもっている。
そして性格的に、
完璧主義、
自己価値観が低い、
人に頼れない、
しっかりしすぎている、
わがままがいえない、
繊細、など。
そして、なんらかの外的要因や、ストレスが加わり、
なんらかのきっかけで、発症するものだと言われているのです。
アメリカらしくピストルに例えるなら、
すでに銃弾が入れてあるピストル。
でも、引き金をひかない限りは、発砲されない。
なんらかのきっかけで、引き金が引かれてしまった時、
初めて発砲するのです。
私が見てきた患者さんでも、多くの方が、なんらかの家族の問題を
抱えています。
お母さんからの期待が高くて、いつもその子が背伸びをしていた、
本当の自分ではダメだというメッセージをもらってしまった、
自分なんていらない子だったのだと言われて育った、
自分はがんばっていないと認めてもらえないのだ、
周りからの期待に答えてきたけれど、ある時それができなくなった、
などなど、いくらでも例はあげられます。
しかし、これも、たまたまその患者さんの感受性が豊かで、
そして、心の鎧がもろかったから・。
同じように育てられた子供達のうち、
一人が発症して、他の子達は大丈夫というのは、
よくあること。
つまり、私は、「家族が悪い」というのは、間違えで、
なんらかの家族との関係が影響して、
発症のきっかけを作る、とは思っています。
でもどの親だって、悪気があって、わざとそういう育て方を
したのではないはず。
本当に本当に悪気があって、わざと、という人たちのケースは、
まれでしょう。
特に摂食障害ではあまりみられないように思います。
逆に一生懸命、親が愛情をかけて、精一杯育ててきた。
何も悪いことはなかった。
でも、子供がなぜか喘息があったり、アトピーがあるのと同じように
親の責任ではないけど、
でもその子がそういう素因を持って生まれてきていた、
ということなんだと思います。
私にも二人の息子がいます。
医療者にとっては、お母さんの育て方が悪い!といってしまうほど、
逆に簡単なことはないかもしれません。
でも、母親にとって、その言葉は、死刑の宣告のようなものなのです。
お母さんも、お父さんも、
それなりにがんばって子育てをしている。
だから、家族のせいで、摂食障害になった、なる、ということは、
ないのです。